A.旧商法の下では、株式の権利の所在、すなわち株主は誰かを特定する場合に、誰が株券を所有しているのかが非常に重要なポイントであり、株券を所有している人が自分は株主ですと名乗り出れば、そのように推定されると定められていました。また、旧商法の下では、株の譲渡については、株券を引き渡さなければ譲渡の効力が発生しませんでした。このように、株券の存在が非常に大きかったといえます。
例えば、相続が発生し、家族名義の株式が果たしてその家族の株式か否かについて、税務調査で問題となるケースにおいて、残された妻が実質上の株主であることを証明する強力な方法が、妻自身の名義に裏書された株券を所有しているということでした。株券を適切に発行し、しかるべき株主が適切に保管することが重要だったのです。
一方、会社法の下では、株券不発行が原則となり、株券が発行されなくなると、株主名簿が重要になりました。新しく株主になった場合は名義変更の手続を必ず行い、会社はその名義変更の手続によって株主名簿の書換えを行います。株主名簿(会社に保管されている株主台帳)が、誰が株主であるかを証明するものとして、重要な役割を担っているのです。したがって、原則として株券は発行しなくても構いませんが、株主名簿については、会社法ができる前より厳密に、適正に管理する必要があります。