A.旧商法においては、株式交換の場合に完全子会社の株主に交付できるのは完全親会社の株式であり、吸収分割の場合に分割会社に交付できるのは承継会社の株式であり、吸収合併の場合に消滅会社の株主に交付できるのは存続会社の株式であるのが原則とされていました。
仮に、A社とB社があり、B社にはP社という親会社があって、B社はP社の100%子会社ですが、A社はB社に吸収合併されることになったとします。この場合、合併と同時に通常、B社は旧A社の株主に対してB社の株式を発行することになっていました。合併によって旧A社の株主が新たにB社の株主となりますので、B社はP社の100%子会社ではなくなってしまうという問題がありました。
一方、会社法においては、これらの組織再編行為を行う場合、完全子会社の株式や承継会社の株式、存続会社の株式の代わりに、金銭その他の財産を交付することが認められています。すなわち、合併の対価の種類が柔軟化されました。
上記の事例について、B社が多くの現金を有しているのであれば、B社の株式を交付するのではなく、現金で精算することも可能です。その場合には、合併後もA社の株主はB社の株主にはならないと思われますので、P社との100%の親子関係は続くでしょう。このように金銭だけを交付する合併を、キャッシュ・アウト・マージャーといいます。
もう一つの方法について述べます。仮に、B社が外国の会社の100%子会社であるとします。すなわち、P社は外国の会社で、B社はP社の日本法人であるとします。そのB社がA社を吸収合併した場合、普通に合併するとP社との100%親子関係が崩れてしまいますので、事前にB社がP社の株式を保有しておきます。旧商法の下では、P社は外国の会社ですのでこの株式の保有は可能でしたが、もしP社が日本の会社であるなら子会社B社は親会社P社の株式を保有できませんでした。しかし、会社法の下では、合併対価として親会社の株式を保有することは例外的に認められています。そして、B社は合併の対価として、事前に取得しておいたP社の株式を交付します。このことによって、旧A社の株主は、B社の株主ではなくP社の株主になりますので、P社には新しく旧A社の株主が入ってくるものの、P社とB社の100%の親子関係は崩れずに続きます。このように親会社の株式を交付する合併を、三角合併といいます。
また、会社法の下では、組織再編で現物配当を活用することも可能となりました。
仮に、親会社P社と、その100%子会社S社があるとします。すなわち、このP社はS社の株式を100%保有しています。このS社の株式を全て、P社の株主に現物配当してしまった場合には、P社とS社は兄弟会社になってしまいます。それまでは親子関係であったのですが、現物配当によって兄弟関係になるのです。このような組織再編の方法を、スピン・オフといいます。