A.財務報告に係る内部統制の監査について、以下に述べます。
1.内部統制監査の目的
経営者は、財務報告に係る内部統制の有効性の評価を行い、その結果を基に内部統制報告書を作成します。その報告書が、一般に公正妥当と判断される内部統制の基準に準拠して、内部統制の有効性の評価結果をあらゆる重要な点において適正に表示しているか否かにつき、財務諸表監査の監査人が意見表明をすることが、内部統制監査の目的です。
内部統制監査においては、経営者の主張と無関係に監査人が直接、内部統制を検証するわけではなく、経営者による内部統制の有効性の評価結果という主張が前提となっています。また、アメリカとは違って、監査人が内部統制に関する直接報告業務(ダイレクトレポーティング)を行うわけではありません。
しかし、監査人は必要十分である監査証拠を入手した上で意見表明を行う必要があり、その限りにおいて、企業等から監査人は直接監査証拠を入手します。
2.財務諸表監査と内部統制監査の関係
監査の効率性の観点から、内部統制監査は、財務諸表監査をする監査人によって財務諸表監査と一体となって行われます。
財務証憑監査で内部統制の整備・運用状況を評価することから、財務諸表監査、内部統制監査の各々の監査過程において入手した監査証拠は、互いに用いられる場合があります。
3.監査計画と評価範囲の妥当性の検討
(1)監査計画
監査人は、次の事項を勘案して、財務報告の重要な事項に虚偽記載が生じるリスクに着目し、効率的で効果的な内部統制監査を行うことができるように、監査計画の策定をする必要があります。なお、内部統制監査の計画は、財務諸表監査の監査計画に含めて策定されます。
・企業を取り巻く環境や事業の特性等の理解
・内部統制の整備・運用状況の理解
・経営者による内部統制の評価の理解
(2)評価範囲の妥当性の検討
監査人は、経営者が決めた内部統制の評価範囲の妥当性を判断するため、評価範囲の決定方法やその根拠の合理性を検討します。具体的には、次に掲げる事項につき、経営者、管理者、担当者に対して質問したり、内部統制の記録を閲覧したりして、検討します。
・重要な事業拠点の選定
・評価対象とされる事業プロセスの判別(重要な事業拠点における企業の事業目的に係る業務プロセス、財務報告に重要な影響を与える業務プロセス、全社的な内部統制の評価結果に基づく調整)
4.内部統制監査の実施
実施基準案においては、次の項目につき具体的な手続きや留意すべき事項等が提示されています。
・全社的な内部統制の評価の検討
・業務プロセスに係る内部統制の評価の検討
・内部統制の重要な欠陥の報告と是正
・監査役会か監査委員会との連携
・他の監査人等の利用
5.監査人の報告
実施基準案においては、次の項目につき取扱いが提示されています。
(1)意見に関する除外
評価範囲、評価手続き、評価結果について不適切なものが存在するものの、内部統制報告書全体として虚偽表示に該当するほどに重要ではないなら、限定付適正意見の表明を行います。
一方、評価範囲等に著しく不適切なものが存在し、内部統制報告書全体として虚偽表示に該当するなら、不適正意見の表明を行います。
(2)監査範囲の制約
重要な監査手続きを行えなかった場合には、内部統制報告書に対する意見表明が不可能であるほど重要か否かに応じて、限定付適正意見の表明を行うか、意見の表明を行わないということになります。
(3)追記情報
内部統制監査報告書において重要事項に関する情報提供である追記情報として、次の項目が挙げられています。
・内部統制に重要な欠陥が存在し、無限定適正意見を表明した場合における記載事項
・重要な欠陥に対して、期末日後に行われた是正措置
・内部統制の有効性の評価に重要な影響を与える後発事象