A.経営者は、非常に多くの時間と労力を費やして、自身で内部統制を構築・評価し、監査を受けることとなり.ます。しかし、どれほどの時間や労力を費やして内部統制を構築しても、内部統制にはそれ自体が限界を有しています。経営者によって構築される内部統制は、絶対的な水準のものというわけではなく、その目的を合理的な範囲で果たすための水準であるといえます。
内部統制の限界として、どのようなことが挙げられるでしょうか。
第一に、判断を間違えたり、不注意だったりすることで、内部統制が有効に機能しなくなる可能性があります。例えば、担当者の入力や上司の承認の際に判断の誤りや不注意があったら、その結果を基づいたデータが、だれにも発見されないままで流れていくかもしれません。また、内部統制の基本的な考え方は相互牽制ですので、複数の担当者が共謀すれば、有効に機能しなくなってしまいます。
第二に、初めに想定されていなかった組織内外の環境の変化や非定型的な取引等には、内部統制が対応しない可能性があります。内部統制は、日常的な業務のプロセスにつき構築していくものといえます。想定されるあらゆる事象につき構築するとしたら切りがないだけでなく、想定外の事象が起こる場合もあります。初めに想定していなかった事象が起こったら、すでに構築されている内部統制に頼るだけでなく、新規に対応しなければなりません。
第三に、内部統制の整備や運用に当たっては、便益と費用を比較衡量する必要があります。したがって、費用面から内部統制が低水準のものになってしまう可能性もあるでしょう。
第四に、不当な目的のために、経営者が内部統制を無視したり無効にしたりする場合があります。内部統制は、経営者が自身で構築するものであるために、最終段階で経営者の一声によってどうにでもなってしまうのです。経営者による内部統制の破壊ともいえるものです。ちなみに、正当な権限のある人が経営上の判断で別段の手続きをすることは、内部統制を無視したり無効にしたりすることとは明確に区別されます。
上記のような内部統制の限界を認識しつつ、有効かつ効率的な内部統制を構築することが重要です。