新会社法を確認する

Q.非公開会社の主な特典を教えてください。

A.会社法においては、非公開会社につき、様々な特典が規定されました。その主たるものは、次の通りです。

1.取締役会の設置は任意であり、設置しない場合には取締役は1人で足りる。また、会計監査人設置会社ではない会社が取締役会を置かない場合は、監査役の設置も任意である。

2.株主総会の招集通知を会日の1週間前までに発すればいい(議決権を持つ株主が1,000人以上である場合以外)。

3.発行済株式総数の2分の1を超過して、議決権制限株式を発行することができる。

4.売主追加の議案変更請求なしに、相続人等(一般承継人)から合意による自己株式の取得ができる。

5.定款によって、取締役の資格を株主に限ることができる。

6.定款によって、取締役(委員会設置会社以外)や監査役の任期を、選任後10年以内の最終決算期に関する定時株主総会の終結時まで延長することができる。

7.定款によって、監査役(監査役会設置会社と会計監査人設置会社以外)の権限を会計監査に限ることができる。

8.定款によって、議決権や剰余金の配当等について、株主ごとに違う取扱いを行うことを定めることができる(この場合における定款変更の決議要件は、総株主数の2分の1以上、かつ総株主の議決権の4分の3以上となる)。

9.定款によって、株式の譲渡につき、次に掲げるような事項を定めることができる。
・株主間の譲渡については、承認が不要である。
・特定の属性を持つ者に対する譲渡については、承認権限を代表取締役等に委任するか、承認が不要である。
・取締役会設置会社についても、承認機関を株主総会とする。
・合併や相続による移転(一般承継)に関して、その移転を承認しない場合はその株式を買い取ることができる。
・先買権者の指定請求があった場合の先買権者を、事前に指定しておく。

 上記3については、会社法ができる前は、ごく限られた株数を持った株主のみで株主総会の決議をすることがないように、議決権を制限した株式が発行済株式総数の2分の1を超えることは認められませんでした。
しかし、会社法においては、非公開会社に限って2分の1を超過して発行できるようになりました。したがって、例えば、会社の発行済株式総数100株のうち、議決権のある株は1株のみで、残りの99株は無議決権株とすることも認められます。この場合は、議決権のある1株を後継者が有していれば、経営権は安泰であるということになります。非公開会社は閉鎖的な会社であることを前提とした規定ですので、弊害はないといえます。むしろ、同族の人々だけで経営を着実に承継していくのが望ましいことから、このような規定が定められているのです。
 なお、議決権制限株式は、種類株式の一つです。種類株式というのは、普通株式とは異なった権利の内容を持つ株式のことです。株式といえば普通株式がイメージされますが、種類株式は普通株式とは権利の内容が異なる株式であるといえます。

また、上記6については、会社法ができる前は、取締役の任期は原則2年、監査役の任期は4年とされていて、会社法においても任期のスタートやエンドの数え方等が少し変更されたものの、原則的には変更されませんでした。だだし、非公開会社については、この2年や4年を最長10年まで延ばすことができるとされました。

 上記3は種類株式を用いて経営権の確保や事業承継を行うということですが、上記8については、定款に定めることでそれと類似のことができるということです。すなわち、議決権や配当につき、株主平等の原則を無視して属人的な決め方をすることが可能であるということです。
例えば、議決権の数について、2株を有している人は1株を有している人の倍の議決権の数があり、株主総会における発言力が強いのが一般的であるといえます。しかし、株主1人につき1議決権と規定することで、多くの株を有している人も、わずかしか有していない人も、1票ずつ議決権を有するという決め方もできることになりました。配当についても、1株につきいくらというのではなく、1人につきいくら配当するという決め方ができるようになりました。
定款自治とよくいわれますが、定款に定めることでかなり自由なことができるようになりました。この制度は、非常に活用しやすく利用価値があるといえるでしょう。定款にそのような規定を設ける場合、第一に定款を変更する必要がありますが、通常の定款変更の要件と比較して、厳しい要件となっています(総株主数の2分の1以上、かつ総株主の議決権の4分の3以上)。
既存の株式を種類株式に換えるのは非常に困難ですが、上記8の定款変更は比較的簡単にできます。

 上記9については、非公開会社は株式の譲渡につき制限を設けているのですが、旧商法の譲渡制限規定では不可能であったことまで、会社法の下では可能となったということです。
 例えば、株主間の譲渡については承認が不要であるという定めや、特定の属性を持つ者に対する譲渡については承認権限を代表取締役等に委任するか承認が不要であるという定めを、定款に規定することができるようになりました。例えば、オーナーである親から後継者である子に生前贈与を行うのであれば、旧商法では、たとえオーナー一族の親子間の贈与であっても、取締役会の承認を得なければなりませんでした。取締役会の承認を受けていない場合、その移動は会社に対しては無効となりました。しかし、会社法においては、定款に、株主間の譲渡はフリーにするという定めや、身内や後継者に譲る場合は代表取締役の承認で構わないという定めを設けておくことによって、生前贈与を円滑に行うことが可能となりました。
 また、取締役会設置会社についても承認機関を株主総会とし、承認手続を厳しくすることが可能となりました。取締役会を置いていない会社では株主総会が承認機関となるのは当然ですが、取締役会を置いている会社でも承認機関を株主総会として、より厳しくすることができるようになったのです。
そして、非常に重要なのが、合併や相続による移転に関しても承認の対象にすることが可能となったことです。会社法ができる前の法律の規定においては、承認の対象としてほとんどの株式の移動をカバーし、贈与でも代物弁済でも物々交換でも承認の対象になりましたが、合併や相続による移転(一般承継)は承認の対象にはできませんでした。同族会社でしばしば問題となるのが、相続による承継です。例えば、一族全員が良好な関係であればいいのですが、株を持たせたくないという人がいるケースも少なくありません。しかし、相続が発生して相続権を主張されると認めざるを得ず、株式はその人のところへ行ってしまいます。株式の譲渡制限規定があっても、会社としては反対できないのです。 
 会社法の下でも、合併や相続による移転を認めないというわけにはいきませんが、合併や相続による移転を承認したくないのであれば、会社がその株式を買い取ることができるようになりました。こうして、株式を承継した人と会社の双方の救済が図られました。定款に、株式を相続等で取得した人に対して、その株式の売渡しを請求できると規定しておきます。そうすることによって、会社は相続人に対して売渡請求を行うことができ、株式を強制的に買い取ることが可能となりました。価格交渉という問題は残るものの、お金を出せば、株式が会社にとって好ましくない相続人に渡ることを防ぐことができるようになったのです。

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