A.経営者は、財務報告の信頼性に与える影響の重要性という観点から必要な範囲につき、財務報告に係る内部統制の有効性を評価する必要があります。その評価は、連結ベースで実施するのが原則です。
上記の重要性という観点については、質的な重要性と金額的な重要性のどちらも考え合わせなければなりません。質的な重要性の判定は、財務諸表の作成に及ぼす影響の重要性や投資判断に及ぼす影響の重要性によって行います。金額的な重要性の判定は、連結総資産、連結売上高、連結税引前利益等に対する比率によって行います。なお、画一的にこれらの比率を用いずに、企業の業種・規模・特性といった会社の状況に応じて適切に適用することが重要です。
評価の範囲をいかにして決定すればいいのかについて述べます。
「全社的な内部統制」というのは、企業集団全体に関係があり、連結ベースでの財務報告全体に重要な影響を与える内部統制のことです。経営者は、全社的な内部統制を評価し、その評価結果を基に、業務プロセスの評価の範囲を決めます。業務プロセスのうちで決算・財務報告に係る業務プロセスで全社的な観点で評価を行うことが適切であると思われるものについては、全社的な内部統制に準じ、全社的な観点で評価を行います。それ以外の業務プロセスについては、評価範囲を次のように決めます。
1.重要な事業拠点の選定
企業に複数の事業拠点がある場合、売上高等の重要性によって評価対象とする事業拠点を決めます。例えば、それぞれの事業拠点(本社が含まれます)の売上高等の金額が高い拠点から合計していき、連結ベースで一定割合となった時点までの事業拠点を評価対象とします。実施基準案においては、重要性の目安として3分の2程度と記載されています。
2.評価対象とする業務プロセスの判別
上記1で選んだ重要な事業拠点における、企業の事業目的に大きく関係する勘定科目にいたる業務プロセスは、全て評価対象とするのが原則です。企業の事業目的に大きく関係する勘定科目として、一般的な事業会社については、売上げ、売掛金、棚卸資産が挙げられています。
これらに加えて、上記1で選んだ事業拠点やそれ以外の事業拠点につき、財務報告に与える影響から重要性が高いと考えられる業務プロセスは、一つ一つ評価対象に加えることになります。そのときの留意点は、次の通りです。
・リスクが大きい取引をしている事業か業務に係る業務プロセス
・見積もりや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセス
・不規則な・非定型取引といった虚偽記載が生じるリスクが高いものとしてとりわけ留意すべき業務プロセス
・特定の取引か事象だけを評価対象に含めれば済むのであれば、その部分のみを評価対象に含めれば済みます。
3.監査人との協議
経営者は、評価範囲を決めた後、その範囲を決めた方法や根拠等に関して、必要に応じ、監査人と協議することが重要です。後で、監査人から評価範囲を見直すように求められることのないよう、監査人の合意をある程度得ておく必要があるのです。